亥の子 いのこ 歌詞の意味・由来

亥の子の晩に 亥の子餅ついて 繁盛せい! 繁盛せい!

亥の子(いのこ)は、西日本で旧暦10月(亥の月)の最初の亥の日に行われる年中行事。「亥の子祭り」、「お亥の子さん(おいのこさん)」とも呼ばれる。

亥の子では、子供たちが近所の家々を回り、家の前で「亥の子の歌(数え歌)」を歌いながら、亥の子石をひもで持ち上げて地面をついたり、固く束ねた藁で地面を叩く行事が行われる。

写真の出典:Webサイト「安芸の船越再発見」より

商売繁盛の神様である恵比須(えびす)様と結びつけられ、数え歌の最後に「繁盛せい!繁盛せい!」の縁起の良い掛け声で締めくくられる場合が多い。

かつては、子供たちはそれぞれの家から亥の子餅(いのこもち)やご祝儀(お金)を受け取っていたようだ。日本版のハロウィンといったところか。

「亥の子の歌(数え歌)」については、地方によって様々な歌や歌詞が存在する。詳しくは後述する。

【YouTube】伊予吉田裡町のお亥の子

亥の子餅とは?

亥の子は中国由来の宮廷行事で、陰暦十月(亥の月)の亥の日、亥の刻(夜9時から11時頃)に、収穫したばかりの穀物で亥の子餅をつくり、それを食べると無病息災に暮らせるとの中国の俗信に基づいている。

中国における亥の子餅の原料は、大豆、小豆、大角豆(ささげ)、胡麻、栗、柿、糖の七種が用いられていたようだ。

源氏物語「葵の巻(あおいのまき)」には、「その夜さり、亥の子もちひまゐらせたり。」として、亥の子餅を献上させるくだりが記されている。

日本では収穫祭に

中国での亥の子餅の行事は、日本における稲作関連行事と結びつき、稲の収穫後に行う収穫祭として定着していった。

もともと日本には、旧暦10月10日に「十日夜(とおかんや、とおかや)」と呼ばれる風習があった。

十日夜は、稲刈り後の藁を束ねた藁鉄砲を作り、歌いながら藁鉄砲で地面を叩く行事で、地の神を励まし、害獣であるモグラを追い払う意味があったという。

十日夜は現代でも東日本を中心に残されているが、西日本においてこれに対応する行事が「亥の子」として位置づけられているようだ。

写真:藁鉄砲で地面を叩く亥の子行事(出典:Webサイト「和夫写真館」)

大黒舞(だいこくまい)とも融合

日本における「亥の子」はさらに、家の前で縁起の良い芸を行い金品を受け取る「門付芸(かどづけげい)」とも結びついたと考えられる。

門付芸は江戸時代に盛んに行われた大道芸の一つで、春駒(はるこま)、鳥追いなどのほか、正月に行われる萬歳(まんざい)、獅子舞(ししまい)、大黒舞(だいこくまい)などが広まっていた。

かつて亥の子の行事では、子どもたちが近所の家の前で「亥の子の歌(数え歌)」を歌いながら、地面をついたり叩いたりする祭事を行い、その家から亥の子餅(いのこもち)やご祝儀(お金)を受け取っていたようだが、これは上述の「門付芸」を子供たちが模倣したものと推測される。

特に、「亥の子の歌(数え歌)」では、「大黒舞(だいこくまい)」で歌われる歌詞がそのまま用いられており、大黒舞がそのルーツ・起源であることは容易に想像できる。

大黒天と恵比寿はそれぞれ七福神の別の神だが、関西では恵比寿信仰が根強いことから、大黒舞の歌詞は「えびす様」の歌として定着したようだ。

歌詞の一例

亥の子 亥の子 亥の子の晩に
亥の子餅搗いて 祝わん者は
鬼産め 蛇(じゃ)産め 角の生えた子産め

これはこれは おえべす様の
一に 俵を踏まえて
二に にっこり笑うて
三に 酒を造って
四つ 世の中ようして
五つ いつもの如くに
六つ 無病息災に
七つ 何事ないように
八つ 屋敷をひろめて
九つ ここらで蔵を立て
十で とうとう納まった

繁盛せい!繁盛せい!

歌詞について補足

「亥の子の歌(数え歌)」は地域によって様々な歌詞が存在するため一概には言えないが、上述の歌詞に限定すれば、歌の内容は大きく二つに分かれる。

まず前半の「祝わん者は 鬼産め 蛇産め」は、家の前で門付芸(かどづけげい)を行い亥の子餅などをもらいに来た子供たちが、家の主に向かって、何かくれないと酷い目にあうぞと歌いかける状況が目に浮かぶ。

これは、西洋のハロウィンでいうところの「トリック・オア・トリート?(お菓子をくれなきゃイタズラするぞ?)」と同じ使われ方の決まり文句と考えられる。

ただ、現代では家の主から何かをもらうという門付芸的な意味合いは薄れているため、この前半部分が歌われる地域は少なくなっているようだ。

後半の数え歌の意味

後半の数え歌部分については、前述の門付芸(かどづけげい)である大黒舞(だいこくまい)がほぼそのままの形で残されている。

具体的には、裕福な家の前に門付芸人がやってきて、えびす様の力による縁起のいい言葉を並べ立て、家の主人の気分を良くして金品を恵んでもらうための数え歌となっている。

つまり、一から十まですべて家の主人に対するお世辞・おだて上げ・誉め言葉であり、歌の最後の「繁盛せい!繁盛せい!」も、かつては「この家 繁盛せい!」と歌われていた。

ちなみに、同様の門付芸の歌としては、青森県民謡『南部俵積み唄』が特に有名。

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